余命宣告までの経緯⑨ 頼みの綱

宇都宮 和紫(♂) • 2020年 11月 26日
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これは母が余命を宣告された日より、わたしが母の闘病生活を思い出しながら、家族としての思いや気持ちを綴った闘病記です。
 
しかし、当然にして家族としての気持ち――わたしの気持ちというはコチラ側から見た一方的なもの。
 医療関係者から見れば、現場を知らない人間の|戯言《たわごと》でしかないのかもしれません。

もし医療に詳しい方、または同じ様な経験をされたご家族の方々から、何かしらのお言葉を頂けたら幸いです。

 

 

 余命宣告までの経緯⑨ 頼みの綱

 

 十月初頭。吻合部へのステント処置が行われた。

 金属の管《ステント》と言っても、筒は細かいメッシュ状で腸の形に合わせ曲がる様に出来ている。
 更に、体内へ入れやすいよう初めてはかなり細い状態であるが、形状記憶合金で出来ており、二日くらいかけ直径2センチほどに開いて行くという。

 

 これが上手く行けば、食事が摂れる様になり、そして体力が少しでも回復すれば、ようやく次のステップ――抗がん剤治療に移れるのだ。

 そう、確かに胃癌は切除したけど、最初に見つかった膵臓癌、そして転移した肝臓癌に関しては、ここまで何のアプローチもしていない。

 

 主治医の話しだと、抗がん剤治療に入るには、普通に歩いて通院出来るくらいの体力がないと耐えられないという。
 体力のない状態で抗がん剤治療を行うと、薬の強さに耐えられず寝たきりになったり、場合によっては植物人間の様になる事もあるそうだ。

 

 まさに、このステント処置が、わたし達に取って頼みの綱であった。

 わたしは、処置が成功したら少しでも早く体力を戻してもらうため、母に合う食事を色々と調べ上げた。
 胃癌手術後の食事法。柔らかくて消化に良く栄養価の高い食材。そして、その調理法など……

 

 家族経営の小さな料理屋とはいえ、一応は調理のプロ。
 色んな本やインターネットサイトから情報を集めまくっていたわたし。

 

 しかし、母のステント処置から二日後……その行為が、全て無駄になってしまった。
 そう、頼みの綱が切れてしまったのだ。

 

 体内で大体二日かけて、広がると言うステント。
 ステント処置から二日後とは、そのステントがちゃんと機能するかどうかが分かる日である。

 

 その日の午後、主治医の先生から電話で呼び出しを受けた。
 しかも、家族で来れる人、全員で来て欲しいと言う。

 

 夜の七時に待ち合わせをし、病院へと向かうわたし達。

 家族全員で来て欲しいと言う言葉に不安を覚えながら、家族用の説明室で先生が来るのを待った。

 

 程なくして現れた先生は、パソコンのモニターをコチラに向け、そこへCT検査の画像を映し出した。
 そう、先日入れた、ステントの様子を移したCTである。

 

 結論から言えば、処置は失敗だった。

 本来、2センチほど開くはずの管が、二日かけて5ミリほどしか開かなかったという。
 コレでは、水分は通っても固形物は通らないそうだ。

 

 それなのに母は、今、すごく喜んでいると言う。
 5ミリとはいえ、胃と腸が繋がった事により胃袋へ胃液が溜まる事がなくなり胃液を吐かなくなったし、何より普通に水も飲めるからだ。

 

 しかし……

 胃液を吐かない? 水が飲める?
 そんな当たり前の事で喜んでいるという母に、わたしは胸がギュッと締め付けられた。

 

 それは、同じ話を聞いていた、父や妹も同じであったろう。

 

 しかし、コチラの心情などお構いなしに、先生の話は淡々と続いて行く。
 ここまで来ると、出来る事も限られて来ると言う主治医の先生。

 

 今、考えているのは、先が二股に別れた管を首から入れて、一方を胃袋へ。そして、もう一方をステントが5ミリでも開いている内に腸へと通すというもの。

 食事や飲み物、そして溜まった胃液は、胃の方に通した管から外に排出し、栄養補給はもう一方の管から腸へ直接投与するという。

 

 胃と腸が塞がっているのだから、食べ物から栄養を摂る事は出来ない。
 しかし、この方法なら、食べるという楽しみだけは残せるというのだ。

 

「この処置は、よほど大きな病院じゃないと出来ないですよ」と、ちょっと自慢気に話す先生に、わたしは少しイラッとした。

 そもそも、二回目のバルーン処置の時までは、吻合部が開いたのだ。ステントを入れる決定をもっと早くしていれば、ちゃんと開いたのではないか?

 

 そんな言葉をグッと飲み込みながら、わたしは先生の言葉に耳を傾ける。

 

 よほど大きな病院でないと出来ない処置。しかし、それなりにリスクもあるらしい。

 首に穴を開け、管を通すのだから、首を通る大事な血管に影響を与え、脳梗塞などを引き起こすかもしれないという事だ。

 

 ただ、考える時間もそれほどない。
 管を通す為に、首から胃袋へと身体に穴を開け、その穴がかさぶたとなり固まらないと管を通せなく、固まるまで二週間くらいかかるという。

 今は、腸へ繋がるステントが5ミリでも開いているけど、これもいつまで開いているか分からないし、閉じてしまえば腸へ管を通す事が出来なくなると言うのだ。

 

 結局、その日の内に処置をお願いしたわたし達。

 そして、話し合いの最後。主治医の先生から、とんでもない言葉が飛び出した。

 

 そう、聞いた瞬間、目の前が真っ暗になるほどの言葉が……

 

 

膵癌 胃癌 肝臓転移